くも膜下出血

【くも膜下出血 その1】

くも膜下出血について
これからの季節、皆さんがよく耳にする脳卒中の代表選手のようなくも膜下出血について少しお話ししましょう。
そもそも、くも膜下出血の原因はその93%が脳動脈瘤と呼ばれる脳の血管の枝分かれの所に存在する瘤が破けることによります。動脈瘤は様々な遺伝子の異常が複合的に関与していると言われています。ですから一、二親等内にくも膜下出血の人が居た場合、一般の3から8倍 脳動脈瘤の発生が多いと言われ、その中でも兄弟姉妹の場合はさらに高いと言われています。 脳動脈瘤は一般に平均2%の人が持っていると言われ、その方々の年間の破裂率は諸説あるもののだいたい0.5から1.5%と言われています。

ということは動脈瘤があるからといっても必ず、くも膜下出血になるというわけでもないことがおわかりいただけたかと思います。
最近は脳ドックというものが発達してきて脳の血管だけをMRIを使って見ることができるようになり、破裂前に脳動脈瘤を発見できるようになってきました。けれども今までお話ししてきたように 脳動脈瘤はガンとは違い、ほっておいたらどんどん大きくなって必ず命取りになってしまうわけではありません。早期発見、早期治療というわけでは必ずしも無いのです。家族歴や動脈瘤の形、大きさ、場所そして喫煙、高血圧、飲酒などの危険因子などを総合的に考えて、御本人やご家族とよく相談しながら治療を考えていきます。

では、どんな症状で発症するのでしょうか?

典型的には突然!ハンマーで殴られたような頭痛、時に首の痛みを自覚することです。ただし突然死を起こすほどの重症例やほんの少しの頭痛と吐き気だけで風邪と間違えるほどの軽症もあるので、油断は禁物です。しかもこれは一時的でなく、持続的で痛くない時が無いということが片頭痛との違いとして重要です。また内頚動脈にある一部の動脈瘤では破裂前に、物が二重に見えるという症状が出ることがあります。
では次に診断です。そのほとんどはCTにて白く広がる出血として診断可能です。しかし極少量の出血であったり、数日経過していた場合は、CTでもわからない場合もあります。 その場合には腰の所から髄液という脳の表面を循環している液体を採取・検査することで確実に診断が可能となります。

          *くも膜下出血のCT 画面左側から中央にかけて白い影が出血

 

【くも膜下出血 その2】

前回に引き続き、今回はくも膜下出血の治療についてお話ししましょう。15年くらい前まではこの病気の治療といえば、開頭脳動脈瘤クリッピングが主流でした。これは動脈の枝分かれの所に存在する動脈瘤の首の部分を金属性(チタンなど)のクリップにてつまみ、瘤内に血液が流れ込まないようにして再出血を防ぐというものです。これは顕微鏡で直視下に行うものですから術中の出血への迅速な対応がしやすいこと、また動脈瘤と正常な血管の枝との関係の把握がしやすくそれに応じたクリップの選択とつまみ方の工夫ができるところが特徴です。ただし、頭の中心に近い(要するに深く狭い場所)にある動脈瘤の場合、周囲の脳組織への影響が大きくなることが問題です。

一方、ここ10年で急速に発達してきた治療法に血管内手術があります。これは極細の(直径約1.5ミリ位)カテーテルを脳動脈瘤の中に挿入し、プラチナでできた渦巻き状に極細のコイルを詰め込んでいって、動脈瘤の中に血液が流れ込まなくする方法です。これは、頭を切らずに再出血を防げるため、だんだんこちらでの治療件数も増えてきました。しかし良いところもあれば悪いところもあるわけで、コイルを詰め込んでいる途中に動脈瘤から再び出血が起きた場合、それを迅速に止血する方法が無いことや、コイルが動脈瘤から正常な血管へ飛び出してきたり、血栓(血糊)が形成されて大切な血管が詰まってしまう危険もあるのです。それぞれの方法に向いている動脈瘤の位置、形があり、一概にどちらが絶対に良いというわけではないので、よく話し合い検討する必要があります。
この血管内手術はまだ進化段階で、これからもっと良い材料や機械が開発される事が予想され、もしかしたら将来は頭を切らなくともくも膜下出血の治療が全て行えるようになるかもしれませんね。

         *脳血管撮影の像 中央付近の丸く先端に小さな突起があるのが動脈瘤

動脈瘤内部にコイルを充填して、出血を防ぐ血管内治療施行した後の画像

中央の白く抜けている丸い所がコイルの入った脳動脈瘤