脳神経外科

院長の梅川淳一です。

私は31年間、脳外科の第一線に身を置き脳血管障害や脳腫瘍、外傷などを主に診てまいりました。

今後は、この関東病院においてこれらの病気の基礎となる糖尿病、高脂血症、高血圧、生活習慣などのリスクを管理し発症予防に力を注ぐとともに、高齢化に伴う認知症の相談・診断・治療、パーキンソン病の早期発見・治療においても地域貢献ができればと思っております。

 

脳神経系の病気について  

【くも膜下出血 その1】

くも膜下出血について
これからの季節、皆さんがよく耳にする脳卒中の代表選手のようなくも膜下出血について少しお話ししましょう。
そもそも、くも膜下出血の原因はその93%が脳動脈瘤と呼ばれる脳の血管の枝分かれの所に存在する瘤が破けることによります。動脈瘤は様々な遺伝子の異常が複合的に関与していると言われています。ですから一、二親等内にくも膜下出血の人が居た場合、一般の3から8倍 脳動脈瘤の発生が多いと言われ、その中でも兄弟姉妹の場合はさらに高いと言われています。 脳動脈瘤は一般に平均2%の人が持っていると言われ、その方々の年間の破裂率は諸説あるもののだいたい0.5から1.5%と言われています。

ということは動脈瘤があるからといっても必ず、くも膜下出血になるというわけでもないことがおわかりいただけたかと思います。
最近は脳ドックというものが発達してきて脳の血管だけをMRIを使って見ることができるようになり、破裂前に脳動脈瘤を発見できるようになってきました。けれども今までお話ししてきたように 脳動脈瘤はガンとは違い、ほっておいたらどんどん大きくなって必ず命取りになってしまうわけではありません。早期発見、早期治療というわけでは必ずしも無いのです。家族歴や動脈瘤の形、大きさ、場所そして喫煙、高血圧、飲酒などの危険因子などを総合的に考えて、御本人やご家族とよく相談しながら治療を考えていきます。

では、どんな症状で発症するのでしょうか?

典型的には突然!ハンマーで殴られたような頭痛、時に首の痛みを自覚することです。ただし突然死を起こすほどの重症例やほんの少しの頭痛と吐き気だけで風邪と間違えるほどの軽症もあるので、油断は禁物です。しかもこれは一時的でなく、持続的で痛くない時が無いということが片頭痛との違いとして重要です。また内頚動脈にある一部の動脈瘤では破裂前に、物が二重に見えるという症状が出ることがあります。
では次に診断です。そのほとんどはCTにて白く広がる出血として診断可能です。しかし極少量の出血であったり、数日経過していた場合は、CTでもわからない場合もあります。 その場合には腰の所から髄液という脳の表面を循環している液体を採取・検査することで確実に診断が可能となります。

          *くも膜下出血のCT 画面左側から中央にかけて白い影が出血

 

【くも膜下出血 その2】

前回に引き続き、今回はくも膜下出血の治療についてお話ししましょう。15年くらい前まではこの病気の治療といえば、開頭脳動脈瘤クリッピングが主流でした。これは動脈の枝分かれの所に存在する動脈瘤の首の部分を金属性(チタンなど)のクリップにてつまみ、瘤内に血液が流れ込まないようにして再出血を防ぐというものです。これは顕微鏡で直視下に行うものですから術中の出血への迅速な対応がしやすいこと、また動脈瘤と正常な血管の枝との関係の把握がしやすくそれに応じたクリップの選択とつまみ方の工夫ができるところが特徴です。ただし、頭の中心に近い(要するに深く狭い場所)にある動脈瘤の場合、周囲の脳組織への影響が大きくなることが問題です。

一方、ここ10年で急速に発達してきた治療法に血管内手術があります。これは極細の(直径約1.5ミリ位)カテーテルを脳動脈瘤の中に挿入し、プラチナでできた渦巻き状に極細のコイルを詰め込んでいって、動脈瘤の中に血液が流れ込まなくする方法です。これは、頭を切らずに再出血を防げるため、だんだんこちらでの治療件数も増えてきました。しかし良いところもあれば悪いところもあるわけで、コイルを詰め込んでいる途中に動脈瘤から再び出血が起きた場合、それを迅速に止血する方法が無いことや、コイルが動脈瘤から正常な血管へ飛び出してきたり、血栓(血糊)が形成されて大切な血管が詰まってしまう危険もあるのです。それぞれの方法に向いている動脈瘤の位置、形があり、一概にどちらが絶対に良いというわけではないので、よく話し合い検討する必要があります。
この血管内手術はまだ進化段階で、これからもっと良い材料や機械が開発される事が予想され、もしかしたら将来は頭を切らなくともくも膜下出血の治療が全て行えるようになるかもしれませんね。

         *脳血管撮影の像 中央付近の丸く先端に小さな突起があるのが動脈瘤

動脈瘤内部にコイルを充填して、出血を防ぐ血管内治療施行した後の画像

中央の白く抜けている丸い所がコイルの入った脳動脈瘤

 

【脳梗塞 その1】

長嶋監督や西城秀樹などが罹病したためご存じの方も多い脳梗塞についてお話しします。そもそも脳梗塞とは脳を養っている血管の血流が途絶えてしまい、それによって栄養と酸素をもらえなくなった脳組織が死んでしまうことを言います。この原因には大きく分けると脳動脈自体が硬化によって細くなっていき血の乱流が形成されて血栓(血糊)によって詰まってしまう(動脈硬化性)ものと、心臓やその他の臓器・血管で形成された血栓が血流に乗って脳の血管までたどり着き、詰まってしまう(塞栓性)ものがあります。前者はゆっくりと細くなっていくため、生体がそれに対応し、他の血管がその血流不足を補うように発達することが多く意外と症状が軽かったり梗塞の範囲が狭いことが多いのです。一方、後者の塞栓性のものは突然の血流遮断となるので、比較的急激に発症し症状が重く梗塞範囲も広いことが多いのが特徴です。
では、症状はどうなのでしょう。脳梗塞は出血性の脳卒中と比べほとんど頭痛を訴えないのが特徴です。(痛くない脳卒中painless stroke) また、脳の血管は左右に分かれており、力の入りにくさ(麻痺)やしびれ(感覚障害)などの症状が片側に出るのが普通で、両側同時に自覚するとしたら頸椎や糖尿病性の事が多いと言えます。また一時的に片側の目が急に見えなくなることは一過性黒内症といって大きな脳血管(内頚動脈)の詰まりかけている兆候として有名です。
その他、”呂律が回らない”、”言葉が出ない”、”反応の低下”など、その詰まってしまった血管によって症状は様々なのです。また、それらの症状が出ても、数分から数時間で完全に治ってしまうこともあります。これは一過性脳虚血発作(TIA)と言い、血糊(血栓)が血管を塞いで症状を出しても、また溶けて血液が再び流れてしまうものと考えられ、大きな脳梗塞の前兆(5年以内に脳梗塞になる確率20~40%)として見過ごしてはいけないものなのです。
さて脳梗塞の診断ですが、臨床症状にておおよその梗塞の場所と範囲は診断がつきますが、画像診断で確定させます。6時間以上経過したものや大きな梗塞ではCTで黒い陰影として見つけることが可能です。しかしあまり早い時期では見つけられず、やはりMRIに頼らざるをえません。処理の仕方によっては発症から2時間くらいで場所や範囲が明らかになります。またMRAによって閉塞した血管がハッキリわかることも多く、またSPECT、XeCTなどで脳の各部分の血流量を計ることも可能になってきました。

 

【脳梗塞 その2】

脳梗塞の治療に関してお話ししましょう。
さきほど、お話ししたように脳梗塞は脳の血流が途絶えて脳の組織が死んでしまう病気ですから、基本的には死んでしまったものを元には戻す魔法の薬はないのです。
では我々に何ができるのでしょうか。血流が途絶えても脳の組織が死んでしまう前に血流を再開してあげれば、その組織は助かるわけです。しかし、その間の時間はとても短いのです。考えてもみてください、自分が息を止めていられる時間を、1分かせいぜいが2分くらいでしょう? それ以上、息ができないと気を失ってしまいますよね。それほどではないにしろ、脳の組織も酸素が途絶えて生きていられるのはデータ上、3時間から4時間くらいまでなのです。ですからそれを越えてしまうと残念ながら、もう救いようがないのです。意外に多いのが、朝起きたら言葉が出なかった、手足の動きが鈍かったと気が付いて来院する方達です。ということは夜中に血管が詰まってしまったわけで、もう救える時間を過ぎているのです。たとえ昼間、活動中に急な異常に気付いても、その後、救急車に連絡し、それに乗り、搬送され病院に到着し、CT、MRIなどの検査をして脳梗塞と判断されて脳血管撮影するまでに3から4時間以内で収まることは残念ながらそう多くはないのが実情です。しかし、その時間内であれば、現在は点滴で血栓を溶かすtPAという薬があり、血流が再開し症状が劇的に回復することもあります。  では、時間を過ぎた場合、何もできないのでしょうか。いいえ、梗塞に陥って死んでしまう運命の組織は救えませんが、それ以上、脳梗塞の範囲が拡大しないように、血栓のさらなる形成を防ぎ、停滞しがちな脳血流をさらさらにする点滴を行うことと、その周囲で死ぬか生きるかの瀬戸際の状態の脳組織を死なないように守ってあげることができます。
ただし、発症時間を無視して、無理に血流を再開させたり(血栓を溶解させたり、血管を拡げたり)すると、死んだ組織の中を走行する血管も痛んでいるわけで、そこに血液が流れると破綻して出血してしまうのです。しかも血が止まらなくなる薬が入っているため、血腫が大きくなり、これが致命傷となることもあるのです。急性期が過ぎた後、脳血管撮影にて著しい脳血管の狭窄が見つかった場合には、次の脳梗塞を予防するための手立てとして、内径動脈の堅くなった壁を手術で除去したり、血管の中から細くなった血管を押し拡げてあげる方法もあります。

 

【脳に関する検査について】

脳神経外科でよく行われる検査について説明いたしましょう。最近よく外来でMRIを撮って欲しいとおっしゃる方が増えてきました。でもCTとMRIの違いが何なのか、それぞれの利点、欠点も理解されずただMRIの方が上級であるように思っていらっしゃる方が多いように感じます。ではCTとMRIの違いは何なのでしょう?

CTとは:患者さんを中心に回転しつつ色々な角度からレントゲンを何枚も撮影してその影の写り方から内部の様子をコンピュータで計算して輪切りの像を造るものです(現在では10秒程度の短時間で)。CTでは骨や石灰分、金属、出血などが白く写り、脳梗塞や脳浮腫(むくみ)、髄液、空気などが黒く写ります。外傷の場合や、脳出血、くも膜下出血を心配するならMRIよりCTの方が骨折や頭蓋内の出血の有無を確実に発見できます。ただし脳梗塞の初期の頃や小さな梗塞に関してはCTは苦手です。また骨に囲まれた小脳や脳幹部(後頭部や首の近くの延髄など)が見えにくいのも欠点です。今では(造影剤を点滴しなければなりませんが)、マルチスライスCTで脳や頚部の血管を立体画像として描出することも可能になっています。

ではMRIは:というと放射線ではなく強力な磁気をかけてそれを解除したときの生体内の水分子の動き方の違いで画像の濃淡をつけるものです。ですから顔の近くに金属があると(たとえば差し歯など)その影響で画像が歪んでしまいます。またペースメーカーや人工関節が入っている人は、機械が狂ったり、熱をもったりしてしまうので撮る事ができません。また、騒音と撮影に時間がかかる(15~20分程度)ことや、閉所恐怖症の人には不向きなところが欠点です。そしてMRIの良いところは骨の影響を受けにくいため、CTで見えにくかった小脳や脳幹部はとてもきれいに写りますし、小さな脳梗塞や発症間もない脳梗塞も(2~3時間くらい経てば)その大きさや場所がわかるのが特徴です。またMRIの中から血管の情報だけを取り出したものがMRAというもので、詰まりかけた血管や脳動脈瘤の有無も判別できます。

ですから、なんでもMRIが良い訳ではなく、その症状や状況に応じてCT、MRIを使い分けるべきなのです。
また脳の血流量を部分毎に調べるXeCT(ゼノンCT)SPECT(スペクト)PET(ペット)などという検査もあります。これは脳梗塞を起こした人の今後の梗塞の拡がりを予測したり、外傷後の意識の回復のめどや認知症の具合を計るのに有効です。その他、首の部分の動脈を超音波で調べて、動脈硬化による狭窄や閉塞の様子をみる頚部エコーや、てんかんの診断に有用な脳波、四肢の血管抵抗(血流速度)をみる事で動脈硬化度を知る方法もでてきました。それぞれの状況や目的、侵襲(危険性)の程度を考えながら必要に応じて検査を順番に組んでいっているのが一般的です。

 

【頭部外傷について】

頭部打撲についてお話ししましょう。

脳外科の外来では、かなりの数の患者さんが交通事故や転んで転倒したりして頭部打撲を主訴に来院されます。交通事故でいらっしゃる方の多くは頭をぶつけたかどうかもわからない、どこも痛くなくて、たんこぶさえない人です。そして気になるのは首筋から後頭部にかけて重く張った感じというものです。これらのほとんどは頭蓋内には何も異常はなく、頸椎捻挫、つまり”むち打ち”の症状なのです。頭蓋内の構造に損傷を与える重要な要素は加速を急に止められる事ですが、フロントガラスやサイドガラスに相当強く頭部をぶつけない限りは、そういう状態にはならないことがほとんどです。もちろん交通事故で相手があり後遺症の事を考えるにはCTなどで初期にきっちり画像診断しておいた方がいいのですが、むしろ後々まで残り、やっかいなのはこの頸椎捻挫の方なのです。この症状の出方の程度や回復の仕方は人それぞれで、最初の1週間にあまり首に負担をかけないこと(重いものを持ったり、高い枕をしない、長時間の同じ姿勢をしないなど)くらいしか注意することがないのが実情です。あとはゆっくりとしたストレッチをしたり、慢性期には首の牽引やマッサージなどで症状の軽減を図ります。筋肉の緊張を和らげる薬もありますが、症状の軽減はできても回復を速めるわけではありません。

次に転んだり、人とぶつかって頭をぶつけたと言って来院する方も多いですね。基本的には人同士でぶつかっても頭の中にまで影響を及ぼすことは、まずありません。ぶつけたところが痛いのはあたりまえです、ただし吐き気などが続いたり嘔吐したりした場合はCTなどのチェックが必要となります。 転んで頭部を打撲した時のポイントは、高さとそのぶつけた物(コンクリートの床なのか、絨毯なのか、角のある硬い物か、柔らかい丸い物なのか)が大切です。子供が室内で、自分の背の高さくらいから転んだり落ちても、まず頭蓋内に問題はありません。ただ角の尖ったものにぶつけた場合には縫合が必要な外傷となったり、骨の薄いこめかみ周囲では骨折になることもあるので、注意してください。
屋外で下がコンクリートであった場合や、本人の背の高さ以上のところから転落した場合は、頭蓋骨と脳の間に出血していたり、脳挫傷がある可能性もありますから念のため病院に連れて来て下さい。
ひとつ気をつけて欲しいのはお子さんの場合、周囲の親御さんの方が神経質になって心配しすぎると、子供さんもそのうち頭が痛いような気になってきてしまうことがありますので、あくまで冷静に吐き気や嘔吐がないか、頭痛は遊んでいる時にも訴えるかなどを見ていただきたいと思います。