脳梗塞

【脳梗塞 その1】

長嶋監督や西城秀樹などが罹病したためご存じの方も多い脳梗塞についてお話しします。そもそも脳梗塞とは脳を養っている血管の血流が途絶えてしまい、それによって栄養と酸素をもらえなくなった脳組織が死んでしまうことを言います。この原因には大きく分けると脳動脈自体が硬化によって細くなっていき血の乱流が形成されて血栓(血糊)によって詰まってしまう(動脈硬化性)ものと、心臓やその他の臓器・血管で形成された血栓が血流に乗って脳の血管までたどり着き、詰まってしまう(塞栓性)ものがあります。前者はゆっくりと細くなっていくため、生体がそれに対応し、他の血管がその血流不足を補うように発達することが多く意外と症状が軽かったり梗塞の範囲が狭いことが多いのです。一方、後者の塞栓性のものは突然の血流遮断となるので、比較的急激に発症し症状が重く梗塞範囲も広いことが多いのが特徴です。

では、症状はどうなのでしょう。脳梗塞は出血性の脳卒中と比べほとんど頭痛を訴えないのが特徴です。(痛くない脳卒中painless stroke) また、脳の血管は左右に分かれており、力の入りにくさ(麻痺)やしびれ(感覚障害)などの症状が片側に出るのが普通で、両側同時に自覚するとしたら頸椎や糖尿病性の事が多いと言えます。また一時的に片側の目が急に見えなくなることは一過性黒内症といって大きな脳血管(内頚動脈)の詰まりかけている兆候として有名です。

その他、”呂律が回らない”、”言葉が出ない”、”反応の低下”など、その詰まってしまった血管によって症状は様々なのです。また、それらの症状が出ても、数分から数時間で完全に治ってしまうこともあります。これは一過性脳虚血発作(TIA)と言い、血糊(血栓)が血管を塞いで症状を出しても、また溶けて血液が再び流れてしまうものと考えられ、大きな脳梗塞の前兆(5年以内に脳梗塞になる確率20~40%)として見過ごしてはいけないものなのです。

さて脳梗塞の診断ですが、臨床症状にておおよその梗塞の場所と範囲は診断がつきますが、画像診断で確定させます。6時間以上経過したものや大きな梗塞ではCTで黒い陰影として見つけることが可能です。しかしあまり早い時期では見つけられず、やはりMRIに頼らざるをえません。処理の仕方によっては発症から2時間くらいで場所や範囲が明らかになります。またMRAによって閉塞した血管がハッキリわかることも多く、またSPECT、XeCTなどで脳の各部分の血流量を計ることも可能になってきました。

 

【脳梗塞 その2】

脳梗塞の治療に関してお話ししましょう。
さきほど、お話ししたように脳梗塞は脳の血流が途絶えて脳の組織が死んでしまう病気ですから、基本的には死んでしまったものを元には戻す魔法の薬はないのです。

では我々に何ができるのでしょうか。血流が途絶えても脳の組織が死んでしまう前に血流を再開してあげれば、その組織は助かるわけです。しかし、その間の時間はとても短いのです。考えてもみてください、自分が息を止めていられる時間を、1分かせいぜいが2分くらいでしょう? それ以上、息ができないと気を失ってしまいますよね。それほどではないにしろ、脳の組織も酸素が途絶えて生きていられるのはデータ上、3時間から4時間くらいまでなのです。ですからそれを越えてしまうと残念ながら、もう救いようがないのです。意外に多いのが、朝起きたら言葉が出なかった、手足の動きが鈍かったと気が付いて来院する方達です。ということは夜中に血管が詰まってしまったわけで、もう救える時間を過ぎているのです。たとえ昼間、活動中に急な異常に気付いても、その後、救急車に連絡し、それに乗り、搬送され病院に到着し、CT、MRIなどの検査をして脳梗塞と判断されて脳血管撮影するまでに3から4時間以内で収まることは残念ながらそう多くはないのが実情です。しかし、その時間内であれば、現在は点滴で血栓を溶かすtPAという薬があり、血流が再開し症状が劇的に回復することもあります。  では、時間を過ぎた場合、何もできないのでしょうか。いいえ、梗塞に陥って死んでしまう運命の組織は救えませんが、それ以上、脳梗塞の範囲が拡大しないように、血栓のさらなる形成を防ぎ、停滞しがちな脳血流をさらさらにする点滴を行うことと、その周囲で死ぬか生きるかの瀬戸際の状態の脳組織を死なないように守ってあげることができます。

ただし、発症時間を無視して、無理に血流を再開させたり(血栓を溶解させたり、血管を拡げたり)すると、死んだ組織の中を走行する血管も痛んでいるわけで、そこに血液が流れると破綻して出血してしまうのです。しかも血が止まらなくなる薬が入っているため、血腫が大きくなり、これが致命傷となることもあるのです。急性期が過ぎた後、脳血管撮影にて著しい脳血管の狭窄が見つかった場合には、次の脳梗塞を予防するための手立てとして、内径動脈の堅くなった壁を手術で除去したり、血管の中から細くなった血管を押し拡げてあげる方法もあります。