せん妄について

せん妄について

今月は入院時の精神状態の変化についてお話ししましょう。昨日まで高齢にもかかわらず元気で一人で何でもできていたおじいさんがちょっとした頭部打撲で入院したのだが、入院した晩や翌日から、落ち着かなくなり、暴れたり、暴言を吐いたり、人が変わったようになってしまったということがままあります。これはせん妄と呼ぶ精神症状です。急性期病院に入院する高齢者の10~20%に発症すると言われており、さらに症状の強さの差はあれ、予定手術で15~25%、緊急手術では35~65%の患者さんで発症し、手術が一番大きな誘因となっています。また、ICUなどの閉鎖された特殊空間(病室)では40%にのぼるとの報告もあるくらいよくあることなのです。症状の持続時間は1週間から2ヶ月以上までさまざまですが、通常10~12日以内に軽快することがほとんどです。

では、具体的にどんな症状が出るのでしょうか? 周囲の状況把握(自分が病院に入院していることなど)ができず、「用事をしに出かけなければならない、こんな所には居る必要がないんだ」などと言いだし、麻痺があることを理解できずにベットから這い降りようとしたり、点滴やカテーテルをかってに抜いたりします。また、普段はおとなしい性格の患者さんが突如、大声で激怒し暴力を振るったりひどい暴言を吐いたりすることもあり、ご家族さえ驚かれることもしばしばあります。また軽いものとしては昼夜が逆転したり、住所や誕生日、年齢がわからなくなったり、実際には無いものが見える(幻覚、妄想)と言い出したりするのです。そしてそれらの症状が数時間から数日で急に出現するのが特徴です。
ではせん妄の原因は何なのでしょうか?元々の素因(高齢、認知症、脱水、難聴などの脆弱性要素)に入院前後の誘因(全身麻酔、手術、環境が変わることによる睡眠の妨害、過剰な安静の指示や身体拘束、頻尿、便秘などの増悪因子)が重なって発症すると言われています。せん妄との鑑別が必要なものに、うつ状態と認知症(痴呆)があります。せん妄は一般に夜間に悪化し、うつ状態は午前中に症状が強く出ます。またせん妄は急性に発生し通常可逆的であるのですが、認知症は緩除な発症であり、ゆっくりと進行していきます。
では、治療にはどうしたらいいのでしょう? 行動管理に関しては、看護の目が届きやすい場所への移動や、ご家族ができるだけ患者さんの側にいられるような環境整備とご家族への説明と促しによる社会的抑制(安心感を与え精神的安定を図る)が一番効果的です。つまり家族の方の協力も必要なのですね。安全だけを考えて身体抑制をすることはかえって興奮をもたらし外傷の危険が増したり、本人のプライドを傷つけてしまったりします。ただ、現実にはその方法だけでは十分では無いことが多いため、薬物療法(内服薬が主)が行われています。
以上のことを知っていただき、症状が出てもそれが脳梗塞や出血など器質的な病気自体によるものでなければ、あまり驚かずに、我々医療スタッフと一緒に患者さんを守っていくように協力していただければと思います。

担当医

梅川 淳一 (うめかわ じゅんいち)

関東病院院長

神経内科・リハビリ科・総合診療科

脳神経外科専門医

アロマセラピーアドバイザー

日本アーユルヴェーダ専門コース修了

外来表

脳神経・
認知症
外来
午前梅川梅川
午後梅川