脳科学について

脳科学 その1

人間の脳が大きく分けて3つに別けられるのはご存知でしょうか(よくタケシやあるあるなんとかなどのTVが偉そうに解説してますからね) 一番古い場所が脳幹部(延髄周辺、つまり首根っこ辺り)、その次が大脳辺縁系(海馬、扁桃体、辺縁連合野、視床、視床下部など脳の真ん中辺りに逆さC字型に並んでいる)、そしてそれらを包むように一番大きな大脳新皮質があります。脳幹部は人間が生物として生きるために必要な基本機能(呼吸、心拍、覚醒など)を司り最重要な場所であるという認識は昔からありました。そして最近までは理性を司り、計算したり芸術を理解したりする大脳新皮質が最も人間らしく大切な部分で、情動や本能を司る大脳辺縁系はあまり重要視されていませんでした、しかし実はこの両者の密な連絡が大切なのであって大脳新皮質だけではうまく機能しないことがわかってきました。
有名な症例にフィニアス・ゲイジという人がいます。彼はボストン在住の、人柄も良く、仕事もできる爆破工事人でした。ある日、爆破事故で直径4cm、長さ1mの鉄の棒が左の頬から刺さり右の脳天(頭頂)へ貫通したのでした! しかしその直後に彼は話す事も歩く事もできたのです。そう、運良く鉄棒は脳幹部や言語野(左前・側頭葉)、運動野〔頭頂の真ん中よりちょっと前〕を損傷することなくすり抜けて行ったのです。しかも事故後、彼のIQは元のままでチェスもかなり上手であったらしいのです。めでたしめでたし・・・ではないのでした! というのも彼の人格はまったく変わってしまっていたのです。まずひとつの問題は判断力を失って決断が出来なくなった事、つまり好き嫌い、良し悪しが決められず、同じ失敗を繰り返し計画性もなくなってしまったのです。もうひとつの問題は、物事に対する感情が希薄になってしまい、喜怒哀楽がほとんどなく同情も恥じる事もなくなってしまったことです。ですから、いくらIQが高くてもこれでは社会生活は送れず、結局その12年後に彼は大痙攣で死んでしまうのです。(いかにIQなどというものが人間の価値のほんの一面しか評価できないものか、これでもよくわかりますね。)要するに左の前頭葉と大脳辺縁系の連絡経路が大きく損傷されてしまったための障害であったのです。
つまり人間が人間らしいこころ豊かな生活を送るためには理性を司る大脳新皮質と、感情や記憶を司る大脳辺縁系の連絡が密でないといけないという事なのです。
最近は人をゲーム感覚で殺してしまい、しかもそれに痛みを感じない人々が多くなっているような気がします。これは過度なストレスや食べ物、幼少時の他者との関係形成の阻害などの影響で、大切な大脳辺縁系と大脳新皮質の連絡が不十分になっているためなのかなと思う今日この頃です。

 

脳科学 その2

最近またクイズ番組なんかで使われる知能テストの代表のようなIQに絡んだお話をしましょう。近所のおかあさんが冗談交じりに「まったくうちのバカ息子は、愛嬌はあるけどIQはなくてね~」なんて言っているのを聞きますが、IQが高い=頭がいい=すごい人なんていう図式はどうかと思います。そもそも知能テストが開発されたのは1800年代後半のフランスで義務教育制度を施行することとなった時、すべての子供達を学校へ通わせるとすると、一部の特に知恵の遅れた子供達のために特別プログラムで援助する必要がでてきたため、その振り分けのためにテストが開発されたということです。でもこの開発にたずさわったアルフレッド・ビネーは最後まで「この尺度は知能の尺度ではあり得ない。なぜなら知能の特質は上下関係におくことはできないのだから」と明言し、このテストによって生徒をランク付けし、知能が決めつけられてしまうという事を最もおそれていたと言います。
しかし その後、登場したチャールズ・スピアマンらによって基礎能力としての一般因子(g)こそ知能を測る絶対的指標(数値)であるという考え方とデータと結果が出てきたのです。
そしていよいよ皆さんご存じの知能指数(IQ)の登場です。これは知能テストの結果から算出した知能年齢を実年齢で割った数値に100をかけたものです。要するに10歳の子供が14歳児の平均点をとった場合、14/10かける100となりIQ140ということになるのです。さてここで疑問が浮かび上がります。一つは5歳の子供がIQ140となるためには7歳児の点を取ればいいのですが、30歳の成人がIQ140を獲得するには42歳の平均点をクリア(42歳の方が上ならばの話ですが・・・)しなければならなくなるということです。そしてもうひとつ変な事は、この知能テストはいろいろな分野からの出題の総合成績なので、図形問題がだめでも計算問題ができた人と、計算問題がだめでも図形問題ができた人が結局同じ点数になってしまうということです。こんな矛盾点も物ともせずアメリカやドイツではこのIQが瞬く間に普及し、なんと低IQ者への不妊手術まで行われたんだそうです!(まさにOH NO 脳!)
しかしルイス・ターマンらによる、高いIQを示した子供達の、その後の追跡調査の結果では、おおむね平均よりは教育水準も高めで収入もやや多く幸福な家庭生活を送っている確率が高かったようですが、人生の落伍者になる者もいたし、アート(芸術)方面で活躍した人はほとんどいないことや、傑出した業績を残した人がいないことがわかったのです。
要するに高いIQイコール将来の知的な成功でないということや、IQが高すぎるってことは、創造的な能力はあまりないんじゃないの?ということらしいのです。
どうです?安心しました? えっ それじゃおもしろみもやる気も出ないですって? いえいえ、これからはただの学歴社会ではなく、自分のやりたいことを突き詰められて、そしてそれをちゃんと評価してもらえる世の中になって欲しいな~との思いを込めて、そして人としての価値は知能ではなくむしろ知性や品性にあるのではないか?(どこかの学長や連盟の会長なんかを見ているとトホホです)と思いお話しました。