病院長の訪問診療日誌 〜その1〜

今まで27年間脳神経外科の前線で働いていた私であったが、H25年11月から亜急性期と慢性期のケアミックス病床を擁する関東病院に副院長として赴任した。

H26年8月からは今後の日本の医療変遷を見つめ在宅での訪問診療を学ぶべく、磯子中央病院院長であった池田裕先生の訪問診療に同伴させていただくようになった。

その医療の現場は、今までの病院や外来での医療のやり方とはかなり毛色の違うものに思えたのをよく覚えている。

もう20年以上も訪問診療を続けてこられた池田先生には長年にわたり培った経験からくるやり方、話の持って行き方、タイミングというものが確立されていたが、僕には随分と悠長に感じられた。

とにかく一番驚いたのは、一般の方々が【死】というものを、あまりに知らないということであった。確かに核家族化が進んだ今の日本にあっては、身近な人の死に遭遇することはめったに無いのであろう。

ある末期の状態で寝たきりの夫を介護する奥さんから、最期をお家で看取ってあげましょうという段階に来たとき、こんな質問が池田先生になされた。

「あの~、先生。主人が亡くなる時、最期に暴れたりしないですか?私、それが怖いんです。」

なるほど死というのを身近に経験していないゆえに、ホラー映画かなんかのイメージと重なるのであろうか? 自分の認識との差に、いささか驚いた。

それに対して、池田先生は「そんなことは絶対にありません。大丈夫です。」と静かに云い、私も「最期まで一生懸命介護してきたご家族を驚かすようなことは、ご主人はしないと思いますよ。」とお話した。その後しばらくして、ある早朝、亡くなったようだとの連絡があり、そのお宅に死亡確認に伺うと、奥様が出てこられ「先生、先生のおっしゃったとおり、本当に静かな眠るような最期でした。前の日に少しだけ水を飲んで、その後は眠っている様で、朝、大きく息をしたかと思ったらそのまま息をしなくなりました。最期まで家で看られて、本当に良かったです。ありがとうございました」と。 その時の奥様の目には涙があふれていましたが悲しいというより、清々しく晴れやかにも見えたのを覚えている。

日本では、1975年を境に在宅での看取りと病院死が逆転し、今では80%以上の方が病院で最期を迎えられている。アンケートでは約70%の方が、自宅もしくは家族の家で最期を迎えたいと考えているのにである。今後、高齢化や人口減少に伴い国は在宅での療養を推し進めている。確かに医療費のひっ迫もあろうが、上記のような現場を見ると、ご家族の負担はあるものの、本人にとっては一番幸せで、しかも看取ったご家族も達成感というか、後悔の少ない最期なのではと思う次第である。

関東病院  病院長 訪問診療医   梅川 淳一

当院では、通院が困難な患者さんを対象に訪問診療を行っております。訪問診療とは患者さんのお宅に定期的に医師が診療にお伺いし、計画的に健康管理を行うものです。

当院では、院長の梅川医師をはじめ複数医師が担当しております。何かございましたらお気軽にお問合せください。
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