病院長の訪問診療日誌 〜その4〜

先日、ご自宅でお看取りをさせていただいた患者さんについて

7年前にパーキンソン病と診断され、その後近医に通院しながらパーキンソン病などのお薬を処方されていました。

当初はご自分で歩いて通院が出来ていましたが、ご存知のようにパーキンソン病は徐々に進行していく病気で、歩幅が狭くなり、歩き出すと止まらず、つんのめりそうになったり、バランスが悪くなり、通院が困難になっていったようでした。

その状態をずっと見てきた訪問看護からの要請もあり、昨年2月から訪問診療を開始しました。

 

自宅に伺うと、玄関のすぐ隣の部屋のベッドに横たわった痩せた92歳になるご本人が居ました。
挨拶を済ませ、色々と今までの経緯や、世間話をするうちに、すっかり打ち解けて下さり、帰り際には

「先生、私の最期を看取ってください。先生なら安心だ~。」

と、おっしゃってくれました。

こうやって、2週に1回の診療が始まりました。
この頃はまだ、ゆっくりですが自宅のトイレまでつかまり歩きで行って用を足せていたのですが、そのうち四つん這いで行くようになり、夏にはほとんど寝たきりの状態になっていきました。

その年の夏は特に暑くて、熱中症の患者が多数発生し、私の訪問診療中の患者も数名調子を崩していました。

そんな状態で、食事もあまり摂らなくなりましたので、奥さんにも今年の夏は越えられないかもとお話ししました。
けれども不思議なことに崎陽軒のシウマイ弁当だけは、美味しそうに食べるのです!

「このご飯が美味しんですよ、シュウマイももちろんだけど空揚げや佃煮もね」

と嬉しそうな笑顔で話すので、夏を乗り切るにはこれしかないと思い奥さんに買ってきてもらうようにお願いしましたが、そう毎日は買いに行けないようでしたので、喜ぶ顔を見たいこともあって、訪問診療のついでに新杉田駅の崎陽軒に寄り道して買って何度も届けました。

そんなことを続けているうちに、夏も過ぎ本人の食欲も徐々に戻っていき、ほっとしたところで、また次の問題が発生!

高齢でもあったため前立腺肥大があり自力で尿が出来ない状態いわゆる尿閉になってしまいました。
仕方なく本人に説明した後、痛がるのをなだめながら尿道カテーテルを挿入。
その後も定期的に交換するのですが、これがまたなかなか入らず、私も本人も悪戦苦闘するようになっていきました。

そこで近くの大学病院の泌尿器科の先生にお願いし、膀胱瘻(へその下あたりに穴をあけて尿道を通さず直接膀胱化から尿を誘導するカテーテルを入れる事)を作ってもらいました。
これでやっと交換の際の苦痛から解放され、やれやれとなったのです。

その後は、やはり年齢には勝てず、徐々に衰弱していき、ほとんど口から物を食べなくなり、さすがのシュウマイ弁当さえも口にしなくなりました。
そして奥さんと娘さんに看取られて穏やかに最期を迎えられました。

口では悪口や痛烈な言葉を口にしていた奥さんでしたが、長い間本当によく介護をなさったものです。
やはり夫婦の絆のなせる業でしょうか。

そしてちゃんと本人との約束通り、ご自宅で私が看取ることが出来たことも良かったと思っています。

                関東病院  病院長 訪問診療医  梅川 淳一

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